FXの両建てとは?禁止と言われる理由と使いどころ

FXの両建てとは?禁止と言われる理由と使いどころ

「両建てなら損が止まると聞いたけれど、禁止されているという話も出てくる。結局やっていいのか、やると何が起きるのかが分からない」

こういった疑問に答えます。

両建てとは、同じ通貨ペアの買いと売りを同時に保有することです。法令や業界団体が禁じている取引ではありません。国内の主要社はいずれも可能としています。ただし「禁止」という言葉が出てくる背景には理由があり、その中身は各社の約款と証拠金ルール、そして往復2回分のスプレッドとマイナススワップという実費のほうです。5,000通貨で1か月組むと、条件次第で18pips分に相当するコストが積み上がります。

両建てを組めるかどうかと、組んだときに証拠金が2倍必要になるかどうかは会社ごとに違います。口座の条件を横並びで見ておきたい方は主要FX会社の比較ページで取引条件を確認してみてください。

会社・サービス両建ての可否両建て時の必要証拠金の扱い公式ページでの位置づけ
ヒロセ通商 LION FX取引要綱に「可能」と記載。ただし初期設定は「両建なし」公式ページで確認できず推奨しない旨を明記。証拠金の算定方式の説明は見当たらない
GMOクリック証券 FXネオ可能MAX方式(売買のうち建玉数量の多いほうのみを計算対象)経済合理性を欠く取引であり推奨するものではないと明記
DMM FX可能買いと売りそれぞれの建玉に証拠金が必要推奨しない旨とあわせて注意点を明記
SBI FXトレード可能取引金額の多いポジションにのみ必要(売りと買いで二重にはかからない)取引ルールに算定方法を明記
外為どっとコム 外貨ネクストネオ設定の切り替えで可能(初期状態は不可、ワンクリック設定時は一律不可)MAX方式(大きい側の合計Lot数で算出)取引概要にMAX方式の定義を明記

※2026年7月時点で各社の公式ページに掲載されていた内容です。条件は変更されることがあるため、最新の内容は必ず公式サイトで確認してください。

両建ては買いと売りを同時に持つだけで、新しい仕組みは何もない

まず定義から。両建ては、同じ通貨ペアで買いポジションと売りポジションを同時に保有する状態のことです。米ドル/円を5,000通貨買っている人が、同じ米ドル/円を5,000通貨売る。これだけ。

このとき何が起きるかというと、為替が動いても損益の合計が変わらなくなります。1円上がれば買いが5,000円の利益、売りが5,000円の損失。差し引きゼロ。

「最強」という評判はここから来ています。含み損を抱えたポジションに反対のポジションをぶつければ、そこから先の値動きは損益に影響しません。損失額が固定される、というわけです。

ただし固定されるのは、その時点までに出ていた損益のほう。含み損100円で両建てを組めば、100円の含み損がそのまま残り続けます。消えるのは変動であって、損失ではありません。ここを取り違えると、両建てが問題を解決してくれるように見えてしまいます。

そして固定されたあとも、コストだけは毎日積み上がります。何が積み上がるのかは記事の後半で数字にしますが、先に結論を言えば、両建ては時間を止める道具ではなく、時間を買う道具です。

注文の出し方そのものは特別ではありません。売りと買いを別々に発注するだけなので、FXの注文方法を7種類に整理した記事で扱った成行や指値がそのまま使えます。

禁止と言われる中身は、法令ではなく各社の約款と推奨方針

ここが一番の誤解ポイントなので、順番に切り分けます。

まず国の規制です。金融先物取引業協会が公表している店頭FXの規制を確認すると、内容は顧客証拠金の区分管理、ロスカットルールの整備義務、そして証拠金率の下限(個人は取引金額の4%以上)の3本柱で構成されています(金融先物取引業協会「FX取引の規制について」)。両建てを禁じる項目は、ここには含まれていません。

つまり「両建ては禁止されている」という言い方は、少なくとも法令と自主規制のレベルでは正確ではないということ。金融庁が両建てを禁止しているわけでもありません。

では何が「禁止」と呼ばれているのか。1つめは、会社が推奨しないと表明しているケースです。GMOクリック証券は両建取引について、スワップポイントにより逆ザヤが生じること、反対売買時にスプレッドによるコストを顧客が二重に負担することなどを挙げ、経済合理性を欠く取引であり当社では推奨するものではない、と取引ルールに明記しています(GMOクリック証券「FXネオ 取引ルール(個人のお客様)」)。

推奨しないと禁止は別物です。同社は両建て時の必要証拠金の計算方法まで公表しているので、制度としては使えることが前提になっています。

2つめが、口座の設定で初期状態が「不可」になっているケース。外為どっとコムの外貨ネクストネオは、両建ての設定を切り替えられる仕様で、初期状態では不可、ワンクリック設定のときは一律不可と公表しています(外為どっとコム「外貨ネクストネオ 取引概要」)。ヒロセ通商のLION FXも同じ形で、取引要綱には両建を可能としたうえで「推奨しておりませんので、初期設定は『両建なし』となっております」と書かれています(ヒロセ通商「取引要綱(LION FX)」)。設定を変えれば使えるので、これも禁止ではありません。

3つめが、約款に抵触する行為との混同です。ここは特に注意してください。外為どっとコムは取引約款に抵触する行為として5類型を挙げていますが、その中身は短時間に頻繁に行われる取引、複数台のパソコンでの同時ログインによる同一タイミングの取引、取引システム以外のツールを使用した取引、流動性の低い時間帯における多額の取引、流動性にかかわらず継続的に反復される多額の取引です。いずれも他の顧客または同社のシステムやカバー取引等に著しい悪影響を及ぼす行為であることが要件とされています(外為どっとコム「取引約款に抵触する行為」)。

この5類型のどこにも、両建てという語は出てきません。口座凍結の話題と両建ての話題が同じ文脈で語られることがありますが、公表されている文言を読むかぎり別の論点です。

まとめると、両建てが問題になるのは規制ではなくコストの側。次でその金額を見ます。

証拠金の扱いは会社によって正反対に分かれる

両建てで最初に効いてくるのが必要証拠金です。ここは各社の方針がきれいに割れます。

MAX方式を採る会社は、売りと買いのうち数量の多いほうだけで計算します。GMOクリック証券は同一通貨ペアの両建時における必要証拠金の計算方法をMAX方式とし、売買のうち建玉数量の多いほうのみを計算対象とする方式と定義しています(GMOクリック証券「FXネオ 取引ルール 両建取引」)。

外為どっとコムも同じ方式です。両建てとなっている通貨ペアにおいて売り買いそれぞれの合計Lot数を比較し、いずれか大きい側の合計Lot数で必要保証金額を算出すると説明しています(外為どっとコム「外貨ネクストネオ 取引概要 両建て」)。

SBI FXトレードも実質同じで、両建て時の必要証拠金は取引金額の多いポジションにのみ必要となり、売りと買いで二重にはかからないと明記しています(SBI FXトレード「取引ルール」)。

一方、DMM FXは扱いが違います。両建ての注意点として、買いと売りそれぞれの建玉に証拠金が必要となる旨を公表しています(DMM FX「サービス概要」)。同じ両建てでも、拘束される資金が2倍になるということ。

ヒロセ通商のLION FXは、取引要綱に「両建は可能」と記載があるものの、証拠金の算定方式についての記述は公式ページで確認できませんでした(ヒロセ通商「取引要綱(LION FX)」)。推測で埋めるより、確認できていないと書いておきます。

金額に直すとどれくらい違うのか。日本銀行が公表した2026年7月21日17時時点の米ドル/円162.59円台を基準にします(日本銀行「外国為替市況(日次)」)。5,000通貨の取引金額は81万2,950円で、証拠金率4%なら3万2,518円です。

計算方式5,000通貨の両建てに必要な証拠金買いのみ5,000通貨との差
MAX方式(多いほうのみ)3万2,518円変わらない
買いと売りそれぞれ必要6万5,036円3万2,518円多く必要

差額は3万2,518円。両建てを組んだ瞬間に、口座の余力がこれだけ削られる会社と、まったく削られない会社があります。同じ操作でロスカットまでの距離が変わるので、口座を開く前に確認しておく価値のある項目です。

5,000通貨の両建てを1か月持つと、コストは18pips分まで積み上がる

ここから実費の話をします。両建てで発生するコストは2種類だけ。スプレッドとスワップの逆ザヤです。

先にスプレッドから。スプレッドは1往復につき1回発生するコストで、両建ては買いポジションと売りポジションをそれぞれ建てて決済するため、合計2往復ぶん負担します。

ヒロセ通商が公表している米ドル/円のスプレッドは、AM9:00から翌AM3:00が0.2銭、AM3:00からAM9:00が5.9銭です(ヒロセ通商「LION FXスプレッド情報」)。日中の0.2銭で計算すると、5,000通貨1往復は10円、両建てなら2往復で20円。早朝の5.9銭なら1往復295円、2往復で590円です。

次にスワップ。両建ては同じ通貨ペアの買いと売りを同時に持つため、受け取るスワップと支払うスワップが両方発生します。両者は同額ではなく、通常は支払いのほうが大きくなる。この差額が逆ザヤです。

ここで正直に書きます。各社のスワップポイントは毎営業日変動し、この記事の執筆時点で公表値を固定できませんでした。そこで逆ザヤの幅を3水準の条件として置き、金額の桁を確かめる形にします。実際の数値は口座を持つ会社のスワップカレンダーで確認してください。

前提は、米ドル/円を5,000通貨で両建て、保有期間30日、スプレッドは日中の0.2銭、5,000通貨の1pipsは50円とします。

逆ザヤ(1万通貨あたり1日)5,000通貨の1日あたり30日分スプレッド2往復1か月の合計5,000通貨のpips換算
10円5円150円20円170円3.4pips
30円15円450円20円470円9.4pips
60円30円900円20円920円18.4pips

同じ条件で、両建ての組成と解消をAM3:00からAM9:00の時間帯にやった場合はスプレッドが590円に膨らむため、合計は740円、1,040円、1,490円となります。上から順に約4.4倍、約2.2倍、約1.6倍。逆ザヤが小さい人ほどスプレッドの比重が大きく、組む時間帯の影響を強く受けるということ。

この表の右端を見てください。逆ザヤ30円の水準なら、1か月で9.4pips。両建てを外したあと、9.4pips以上こちらの想定どおりに動いてはじめて、待った意味が出てくることになります。

金額だけ見れば数百円ですから、「その程度なら」と感じるかもしれません。ただしこれは5,000通貨の話。1万通貨なら倍、3か月持てば3倍で、しかも解消のタイミングを決めない限り終わりません。マイナススワップの回避策そのものについてはマイナススワップ対策と両建て・スワップフリーの実際で個別に扱っています。

両建てが固定するのは損益だけで、判断は1つも減らない

コストの次に見ておきたいのが、構造的な話です。両建てを組むと問題が解決したように見えますが、実際に解決した問題は1つもありません。

考えてみてください。両建てを組んだあと、あなたは何をすることになるか。どちらかを外すタイミングを決める必要があります。しかも外した瞬間から、残ったポジションは元の含み損を抱えたまま値動きにさらされます。

つまり両建ては、決済という1つの判断を「どちらをいつ外すか」という2つの判断に増やす操作です。判断が難しいから両建てにしたのに、判断が増える。私はここが両建ての最大の弱点だと考えています。

比べてみます。含み損5,000円のポジションを持っているとき、選べる道は3つ。

選択肢確定する損益その後に必要な判断追加で発生するコスト
そのまま決済する5,000円の損失で確定なしなし(1往復分のスプレッドは建てた時点で負担済み)
両建てを組む損益は5,000円の損失で固定どちらをいつ外すかの2段階もう1往復分のスプレッドと逆ザヤ
何もせず持ち続ける未確定のまま変動決済の判断1つ保有中の片側のスワップだけ(受け取りになる場合もある)

真ん中の行だけ、コストと判断が同時に増えています。損失額は決済した場合と変わりません。

「それでも損失が広がらないのは大きい」と思うかもしれません。その通りです。ただし損失が広がらない代わりに、回復する余地も同時に消えています。上にも下にも動かない状態を、お金を払って維持しているということ。

もう一点、勘違いされやすい部分を潰しておきます。両建てを組んでもロスカットの対象から外れるわけではありません。ロスカットルールの整備と遵守は2010年2月1日から個人顧客と取引するすべての業者に義務づけられており、口座の有効証拠金が水準を割れば執行されます(金融先物取引業協会「FX取引の規制について」)。値動きが止まっていても、逆ザヤの支払いで有効証拠金は毎日わずかに減ります。両建てのまま長期間放置すると、値動きではなくコストでロスカットに近づいていく形になります。

では使いどころはないのか。あります。どうしても決済できない事情があるとき、たとえば重要指標の発表を挟んで数時間だけ値動きを止めたい場合や、税務上の年度をまたぎたくない事情がある場合です。共通しているのは「期限が決まっている」こと。外す日を先に決められない両建ては、単なる損失の先送りになります。

FXの両建てについて口座開設前によく聞かれる4つの質問

ここまでで、禁止という言葉の中身とコストの実額は整理できたはずです。残りは実務で引っかかりやすい部分に答えます。

FXで両建てはなぜ禁止されているのですか?

法令や業界団体が禁止しているわけではありません。国内の主要社はいずれも両建てを可能としています。

禁止と呼ばれる理由は3つに分かれます。会社が経済合理性を欠く取引として推奨しないと表明していること、口座の初期設定が不可になっている会社があること、そして約款に抵触する行為との混同です。3つめについては、外為どっとコムが公表している抵触行為5類型に両建てという語は出てきません。

両建てをすると口座を凍結されますか?

公表されている抵触行為の要件を読むかぎり、両建てそのものを理由とする凍結の記載は見当たりません。

問題にされているのは、他の顧客や会社のシステム、カバー取引に著しい悪影響を及ぼす取引です。両建てと口座凍結を結びつける説明を見かけたら、根拠として示されている公式ページの文言を自分で確認してください。

両建てなら証拠金は2倍必要ですか?

会社によります。GMOクリック証券、外為どっとコム、SBI FXトレードは多いほうだけで計算する方式を公表しており、この場合は増えません。

一方でDMM FXは、買いと売りそれぞれの建玉に証拠金が必要と公表しています。5,000通貨なら3万2,518円と6万5,036円の差になるので、事前の確認は必須です。

両建てはスワップ狙いにも使えますか?

同じ通貨ペアで組むかぎり、受け取りと支払いの差である逆ザヤが出るため、収益源としては期待できません。

異なる会社をまたいで組む方法が語られることもありますが、資金が2口座に分散し、片側だけがロスカットされる危険が生まれます。仕組みとしての難易度は、同一口座の両建てより明確に上がります。

両建ては損を消す道具ではなく、時間を買う道具にすぎない

両建てを調べる人の多くは、損失をなかったことにする方法を探しています。しかし公表されているルールとコストを並べてみると、両建てが提供しているのは「値動きを止めた時間」だけで、その時間には値札が付いているというのが実際のところです。

  • 両建ては法令でも自主規制でも禁止されていない。国内主要社はいずれも可能としている
  • 外為どっとコムの約款抵触行為5類型に両建てという語はない。口座凍結の話と混同しない
  • 必要証拠金はMAX方式の会社と両建て分それぞれ必要な会社に分かれ、5,000通貨で3万2,518円の差
  • コストはスプレッド2往復分と逆ザヤの合計。5,000通貨1か月で170円から920円、pipsなら3.4から18.4
  • 固定されるのは損益だけで、決済の判断は1つから2つに増える

外す日を先に決められるなら、両建ては選択肢に入ります。決められないなら、その場で決済したほうが安く済むというのが私の考えです。

両建ての損得は、結局のところ証拠金がどう計算されるかで決まります。必要証拠金と維持率の求め方を手を動かして確かめたい方は、FXの証拠金と維持率の計算方法を先に読んでおくと、この記事の金額の意味がはっきりします。

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