「レジスタンスを抜けたと思って買ったら、すぐ戻されて損切りになった。ダマシを避ける方法があるなら知りたい。そもそも、どこからが抜けたと言えるのかが曖昧なままだ」
こういった疑問に答えます。
先に厳しいことを書きます。ダマシだけを選り分ける方法は存在しません。あるのは、抜けの条件を厳しくすると偽のシグナルは減るが、エントリー機会も減り、エントリー価格が不利になるというトレードオフだけです。この記事では、抜け幅の要求を5pips・10pips・20pipsと変えたときに何が起きるかを4,000通貨の金額で出します。要求を20pipsにすると損切り距離は25.0pipsまで伸び、同じ目標に対する利益と損失の比は3.50倍から0.80倍まで落ちます。条件を厳しくすることは、無料ではありません。
波の数え方から相場の位置を見る考え方はエリオット波動とサイクル理論をまとめた記事に譲ります。抜けの判定には約定条件も関わってくるので、スプレッドや取引単位は主要FX会社の比較ページで先に確認しておくと計算が具体的になります。
| 基準セット | 終値の条件 | 要求する抜け幅 | 抜けた後の維持本数 | 追加条件 | 成立の起きやすさ |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 高値が超えれば成立(ヒゲ可) | 0.1pips以上 | 0本 | なし | 最も多く成立する |
| B | 終値が超える | 1pips以上 | 0本 | なし | Aより減る |
| C | 終値が超える | 5pips以上 | 1本 | なし | Bより減る |
| D | 終値が超える | 10pips以上 | 2本 | なし | Cより減る |
| E | 終値が超える | 20pips以上 | 3本 | 抜けたラインへの戻りを待つ | 最も少ない |
※AからEの数値は、条件の厳しさと成立回数の関係を示すために私が置いた基準です。どのセットが優れているかを示すものではありません。右端の「成立の起きやすさ」は条件の包含関係から導いた順序であり、実際の発生率を測定した数値ではありません。
ブレイクアウトは「抜けた」を数値に置き換えないと、検証も再現もできない
まず言葉の整理から。ブレイクアウトは、価格がそれまで越えられなかった水準を越えることを指します。ただしこの説明のままでは、注文には落ちません。
「越える」という日本語が、少なくとも4つの意味を含んでいるからです。
- 取引中の価格が一瞬でも越えた
- 高値または安値が越えた(ヒゲが越えた)
- 終値が越えて足が確定した
- 終値が越えたうえで、決めた幅ぶん離れて確定した
この4つは別々の事象で、成立するタイミングも回数もまるで違います。同じチャートを見ていても、どれを採用しているかが違えば結論は一致しません。
終値を採用するのには一応の理由があります。四本値のうち終値はその時間の終わりの価格であり、移動平均線をはじめ多くのテクニカル指標は終値を基準に算出されるためです(OANDA証券 用語集「四本値」)。ほかの指標と判定の基準をそろえられる、という実務上の利点があります。
終値で抜けたかヒゲだけかで、同じ1本の評価は正反対になる
具体例で確かめます。レジスタンスを163.000円と置きます。
ある1本の足が、高値163.120円・終値162.960円で確定したとしましょう。高値だけを見れば12.0pips抜けていますが、終値は163.000円を下回っています。
| 判定方法 | 使う値 | レジスタンス163.000円との関係 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 高値ベース | 163.120円 | 12.0pips上 | 成立 |
| 終値ベース | 162.960円 | 4.0pips下 | 不成立 |
同じ1本が、基準を変えるだけで成立にも不成立にもなりました。4,000通貨で見れば、12.0pipsは480円、4.0pipsは160円ぶんの差です。
ローソク足は実体と上ヒゲ・下ヒゲの3つの部分から成り、始値より終値が高ければ陽線、低ければ陰線と判定されます(マネックス証券「ローソク足の基礎」)。上ヒゲが伸びた足というのは、そこまで買われたが押し戻された記録。抜けた事実ではなく、抜けようとして戻された事実のほうが残っている、という読み方もできます。
どちらを採用するかに正解はありません。決めるべきなのは、一度決めたら途中で変えないということ。都合のよいときだけヒゲを採用する運用になると、あとから検証できなくなります。
抜け幅を5・10・20pipsと変えると、損切り距離と損失額はこう動く
ここが本題です。前提を先に置きます。
- 通貨ペアは米ドル/円、1pips=0.01円、4,000通貨なら1pips=40円
- 基準レートは日本銀行が公表した2026年7月21日17時時点の162.59円台。以下の価格はその近辺に私が置いた仮の数値(日本銀行「外国為替市況(日次)」)
- レジスタンスは163.000円。損切りはレジスタンスの5pips下、162.950円に固定
- 利食い目標は163.400円に固定
- スプレッドと税金は考慮しない
この条件で、要求する抜け幅だけを変えます。
| 要求する抜け幅 | エントリー価格 | 損切りまでの距離 | 4,000通貨での損失額 | 目標までの値幅 | 4,000通貨での利益額 | 利益と損失の比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5pips | 163.050円 | 10.0pips | 400円 | 35.0pips | 1,400円 | 3.50倍 |
| 10pips | 163.100円 | 15.0pips | 600円 | 30.0pips | 1,200円 | 2.00倍 |
| 20pips | 163.200円 | 25.0pips | 1,000円 | 20.0pips | 800円 | 0.80倍 |
読み取れることは3つあります。
第一に、要求を厳しくするほどエントリー価格は高くなります。当然といえば当然で、より上に離れてから入るのだから。
第二に、損切り位置を同じ場所に置いたまま要求を厳しくすると、損切りまでの距離が伸びます。5pips要求なら10.0pipsで済んだものが、20pips要求では25.0pipsに。損失額は400円から1,000円へ、2.5倍に膨らみました。
第三に、目標を固定している以上、取れる値幅は縮みます。35.0pipsが20.0pipsへ。結果として、利益と損失の比は3.50倍から0.80倍まで落ちました。0.80倍というのは、当たったときの利益より外れたときの損失のほうが大きいということ。
「厳しい条件のほうが慎重で安全なのでは」と思うかもしれません。偽のシグナルを踏む回数という意味ではそのとおりですが、1回あたりの損益の形は明確に悪くなります。ここが、条件を厳しくすることの代償です。
損切りを固定幅にすると、今度は損切り位置がレジスタンスの上に出てしまう
「では損切り距離のほうを固定すればいい」という考えが浮かびます。エントリーから常に10pips下に置く、という置き方です。
やってみます。
| 要求する抜け幅 | エントリー価格 | 損切り価格 | レジスタンス163.000円との位置関係 | 4,000通貨での損失額 |
|---|---|---|---|---|
| 5pips | 163.050円 | 162.950円 | 5.0pips下 | 400円 |
| 10pips | 163.100円 | 163.000円 | ちょうど同じ | 400円 |
| 20pips | 163.200円 | 163.100円 | 10.0pips上 | 400円 |
損失額は3つとも400円にそろいました。ただし別の問題が出ています。
20pips要求のケースでは、損切り価格163.100円がレジスタンスより10.0pips上にあります。抜けたラインまで戻ってくる、ごく普通の値動きだけで損切りに当たるということ。抜けた水準を試しにいく動きは珍しくないので、この置き方は形として無理があります。
つまり、損切り位置を金額で固定しても、値幅の要求を上げた分の負担がどこかへ移るだけです。エントリーが遅れるという事実は、どう工夫しても消えません。
ここは断言しますが、要求を厳しくすれば損益の形が良くなる、という都合のよい調整方法はありません。とはいえ、細かく往復する相場で無駄な売買を繰り返すくらいなら、条件を厳しくして回数を絞る判断は十分に合理的です。選ぶべきは「どちらの不利を受け入れるか」のほうです。
抜け幅の基準は、ATRで平均的な値幅と比べてから決める
5pipsか10pipsか20pipsかを、何を根拠に選ぶのか。ここで使えるのがATRです。
ATRはボラティリティを示す指標で、相場の動く大きさを判断するときに用いられます。当日のTR(True Range)は「当日高値−当日安値」「当日高値−前日終値」「前日終値−当日安値」の3つのうち最大の値をとり、ATRはそのn日指数平滑移動平均(EMA)。nは14日や20日を用いるのが一般的とされています(ヒロセ通商「ATR」)。楽天証券のMARKET SPEED FXでも、この最大値幅の移動平均線がATRであるとし、初期設定を期間14としています(楽天証券「MARKET SPEED FX オンラインヘルプ ATR」)。
TRを1本ぶん計算してみます。当日高値163.100円、当日安値162.750円、前日終値162.600円と置いた場合。
- 当日高値 − 当日安値 = 35.0pips
- 当日高値 − 前日終値 = 50.0pips
- 前日終値 − 当日安値 = マイナス15.0pips
最大は50.0pipsなので、この足のTRは50.0pips。4,000通貨なら2,000円ぶんの値幅です。前日終値より上に窓が開いた分まで含めて測る、というのがTRの考え方になります。
仮にATRが20.0pipsの相場だとすれば、要求する抜け幅はATRに対して次の比率になります。
- 5pips = ATRの25%
- 10pips = ATRの50%
- 20pips = ATRの100%
こうすると、20pips要求というのが「1本ぶんの平均的な値幅まるごと抜けろ」という要求だと分かります。ATRが40.0pipsに拡大している相場なら、同じ20pipsは50%相当まで軽くなる。抜け幅を固定の数字で持つのではなく、ATRの何パーセントで持っておくと、相場の状態が変わっても意味が保たれます。
なお、ATRの平均の取り方は資料で分かれます。ヒロセ通商は指数平滑移動平均としていますが、楽天証券のページには単純平均かEMAかの明記がありません。どちらの計算でも大きな傾向は変わりませんが、細かい数値を人と突き合わせるときは計算方法の確認が要ります。
抜けた後の維持本数を条件に足すと、成立回数は確実に減る
冒頭の表に入れた「維持本数」の話をします。抜けた足の次の足も、その次の足も、抜けた水準の上で確定したかを数える条件です。
論理としては単純で、条件を1つ足せば成立するケースは増えません。同じ条件のまま本数だけ増やせば、成立する組み合わせは減る一方です。これは実測しなくても言えることで、包含関係から導けます。
一方で、待つあいだに価格は動きます。3本待ってから入るということは、その3本ぶんの値動きを取り逃がすということ。先ほどの表で言えば、エントリー価格がさらに上へずれていくのと同じ構造です。
本数を数えるときは、足の区切りをどこに置くかも決めておく必要があります。MT4では期間区切りの縦線が引かれる間隔が時間足ごとに定められており、1分足から1時間足までは日区切り、4時間足は週区切り、日足は月区切り、週足と月足は年区切りです(ゴールデンウェイ・ジャパン(FXTF)「MT4チャートの期間区切り表示」)。区切りが違えば、同じ時刻でも何本目かが変わります。
ここで読者に1つ問いかけたいことがあります。「3本維持を待って入る自分」と「1本で入って外れたら降りる自分」、どちらのほうが実際に実行できるでしょうか。判定の精度より、決めた手順を毎回同じように実行できるかどうかのほうが、結果への影響は大きいと私は考えています。
時間帯でスプレッドが29.5倍変わる以上、同じ抜け幅でもコストは同じではない
最後にコストの話。抜け幅の要求を決めるとき、スプレッドを無視すると判断が甘くなります。
ヒロセ通商のLION FXは米ドル/円のスプレッドを、AM9:00から翌AM3:00までが0.2銭、AM3:00からAM9:00までが5.9銭と時間帯を分けて公表しています(ヒロセ通商「LION FXスプレッド情報」)。同じ通貨ペアで29.5倍の開きです。※2026年7月時点。最新の条件は公式サイトで確認してください。
4,000通貨に換算します。0.2銭なら1往復8円、5.9銭なら1往復236円。抜け幅の要求別に、その値幅の何パーセントがコストで消えるかを出しました。
| 要求する抜け幅 | 4,000通貨での値幅 | 0.2銭の往復コスト(8円)の比率 | 5.9銭の往復コスト(236円)の比率 |
|---|---|---|---|
| 5pips | 200円 | 4.0% | 118.0% |
| 10pips | 400円 | 2.0% | 59.0% |
| 20pips | 800円 | 1.0% | 29.5% |
5.9銭の時間帯では、5pipsぶんの値幅を取ってもコストのほうが大きい。118%というのは、抜け幅どおりに動いても往復コストで赤字になるという意味です。
流動性の低い時間帯にレンジを抜けたように見えても、実際に手元へ残る金額はこの表のとおり削られます。抜けの判定を厳しくするより、この時間帯を避けるほうが効きやすい場合もあります。
なお、ここで使っている4,000通貨という単位は、ヒロセ通商のLION FXなら1Lot=1,000通貨が基本なので4Lotにあたります(ヒロセ通商「取引要綱(LION FX)」)。損切りを置き忘れた場合の最終防衛線は各社のロスカットで、GMOクリック証券のFXネオは証拠金維持率50%を下回るとロスカットになると公表しています(GMOクリック証券「FXネオ 取引ルール(個人のお客様)」)。これはブレイクアウトの手法とは別の、口座側の仕組みです。
ブレイクアウト手法とダマシについて多い疑問
判定の型と、条件を変えたときの損益の動きはここまでで揃いました。実際に運用する段階で出てくる4点に答えます。
ダマシを見抜く方法はありますか?
ダマシだけを事前に取り除く方法を、私は知りません。抜けが続くかどうかは抜けた時点では確定しておらず、あとから振り返って初めてダマシと呼ばれるからです。
できるのは条件の調整だけ。終値ベースにする、抜け幅を要求する、維持本数を数えるといった条件を足せば偽のシグナルは減りますが、同時にエントリー機会も減り、エントリー価格は不利になります。この交換関係を受け入れたうえで、自分の許容損失に合う位置を選ぶことになります。
抜け幅は何pipsに設定すればよいですか?
固定の正解はありません。ただしATRを使えば、根拠のある決め方はできます。
ATRの何パーセントを要求するかで持っておけば、相場の勢いが変わっても要求の意味が保たれます。この記事の例ではATR20.0pipsに対して5pipsが25%、20pipsが100%。まずは自分の時間足でATRを表示し、そのうえで比率を決めてみてください。
抜けたあとの押し目を待つと、乗り遅れませんか?
乗り遅れることはあります。押し目を待つ条件は、冒頭の表のセットEに含めた最も厳しい条件で、成立回数は最も少なくなります。
そのかわり、押し目を待てばエントリー価格は抜けた水準の近くまで戻ります。損切りをその水準のすぐ下に置けるため、損切り距離は短くできる。機会の数を減らして1回あたりの形を良くする選択、と整理すると分かりやすいと思います。
経済指標の発表直後のブレイクは狙えますか?
値幅は出やすい局面ですが、コストと約定の条件が普段と変わります。各社ともスプレッドは完全固定ではなく、流動性の低い時間帯や指標発表時などには広がる旨を注記しています(ヒロセ通商「LION FXスプレッド情報」)。
抜け幅を10pips要求していても、スプレッドが数銭に広がれば、その要求は実質的に成立しにくくなります。狙うなら、平常時と同じ条件で判定できると思わないこと。私としては、判定の練習をする段階では避けたほうがよいと考えています。
ブレイクアウトで自分が決められるのは、抜けの定義と損切り距離だけ
ブレイクアウトを扱うときにいちばん誤解されやすいのは、良い条件を見つければ勝てるという前提だと思います。実際に自分でコントロールできるのは、抜けたと判定する基準と、外れたときにいくら失うかという2つしかありません。
- 「抜けた」には4つの意味がある。どれを採用するかを先に決め、途中で変えない
- 抜け幅の要求を5→10→20pipsと上げると、損切り距離は10.0→15.0→25.0pipsへ伸び、損失は400円→1,000円へ(4,000通貨)
- 同じ目標に対する利益と損失の比は3.50倍から0.80倍まで落ちる。厳しくするのは無料ではない
- 損切りを固定幅にすると、20pips要求では損切り位置がレジスタンスの10.0pips上に出てしまう
- 抜け幅はATRの何パーセントで持つと、相場の勢いが変わっても意味が保たれる
条件を絞り込む方向に迷いが出たら、抜けを追いかけるのではなく、抜けたあとの戻りを待つ選択肢も検討してみてください。戻りをどこで測り、どこで入るかという手順は押し目買いと戻り売りのエントリー位置の測り方をまとめた記事に整理しています。

