「取引画面に価格が2つ並んでいる。どちらを見て判断すればいいのか分からないし、買った瞬間にマイナスから始まるのも納得がいかない」
こういった疑問に答えます。
FXの画面に並ぶ2つの価格は、Bidが自分の売る価格、Askが自分の買う価格です。新規で買うときはAsk、その建玉を決済するときはBidを使うため、買った直後は必ず評価損から始まります。このとき成立した価格が建値と呼ばれるもので、以降の損益はすべて建値との差で計算されます。米ドル/円をAsk 162.592円で1万通貨買った直後の含み損は20円。レートが一度も動いていない時点で、この20円はすでに確定しています。
2つの価格の開き方は口座ごとに違います。条件を横並びで確かめたい方は主要FX会社の比較ページに取引単位や取引時間をまとめました。
| 注文の場面 | 使われる価格 | 米ドル/円の例 | 実際にやっていること |
|---|---|---|---|
| 新規の買い(ロング) | Ask | 162.592円 | 高いほうの価格で買う |
| 買い建玉の決済 | Bid | 162.590円 | 安いほうの価格で売る |
| 新規の売り(ショート) | Bid | 162.590円 | 安いほうの価格で売る |
| 売り建玉の決済 | Ask | 162.592円 | 高いほうの価格で買い戻す |
※価格例は米ドル/円の2つの価格の開きを0.2銭と置いた場合の表示です。
Bidは自分が売る価格、Askは自分が買う価格
まず用語を固定します。Bidは業者が買い取る値段、つまり自分が売るときに適用される価格。Askは業者が売り渡す値段で、自分が買うときに適用される価格です。
Offerという表記を使う会社もありますが、Askと同じものだと考えて差し支えありません。画面上では「売」「買」のボタンにそれぞれの数字が乗っている形が多いはず。
順番を覚えるコツは、業者側の立場で読むこと。業者は安く買って高く売るので、Bidが必ず低く、Askが必ず高くなります。この上下関係が逆転することはありません。
レートの水準そのものは、公的な統計でも確認できます。日本銀行の外国為替市況によると、2026年7月21日17時時点の米ドル/円は162.59円台でした(日本銀行「外国為替市況(日次)」)。この記事の数値例は、すべてこの水準を基準にしています。
なお、価格の刻み幅の話とレートの読み方は別物です。1銭がいくらの損益になるのかを先に整理しておきたい方は、FXのpipsと1pipsあたりの価値に目を通しておくと、この記事の数字がそのまま頭に入ります。
入るときと出るときで、使う価格が必ず入れ替わる
冒頭の表で一番重要なのは、行が4つある点です。買いと売りの2択ではなく、新規と決済を掛け合わせた4通りがある。
理屈は単純で、決済は反対売買だからです。買って持っている建玉を閉じる操作は「売る」ことなので、使われる価格はBidに切り替わります。売り建玉を閉じる操作は「買い戻す」ことなので、Askに切り替わる。
つまり自分が買いから入った人は、入口でAskを使い、出口でBidを使う。売りから入った人は、入口でBid、出口でAsk。どちらの方向から入っても、高いほうで買って安いほうで売る組み合わせになります。
ここが「どちらの価格を見ればいいのか」という迷いの正体です。答えは、いまから出す注文が買いなのか売りなのかで決まる、ということ。保有中の建玉があるかどうかは関係ありません。
建値とは、自分の注文が実際に成立した価格のこと
「建値とは何か」を一言でいえば、自分のポジションが約定した価格です。約定価格と呼ばれることもあり、取引画面ではポジション一覧の「建値」「約定価格」といった列に表示されます。
大切なのは、建値が画面に流れているレートとは別の数字だということ。相場が動けば表示レートは1秒ごとに変わりますが、いったん成立した建値は動きません。自分の注文が通った瞬間の価格が、そのまま台帳に刻まれる形です。
同じ通貨ペアを何回かに分けて建てた場合は、平均建値という考え方になります。数量で加重平均した1本の価格にまとめられ、以降の損益計算はその平均値を基準に行われます。
そして建値が効いてくるのは、取引手数料が損益に絡まない設計だからでもあります。たとえばヒロセ通商のLION FXは取引要綱で取引手数料を0円と明記しており、1Lotは1,000通貨が基本、ロスカットは有効比率が100%を割り込むと執行されると記載しています(ヒロセ通商「取引要綱(LION FX)」)。※2026年7月時点。最新の条件は公式サイトで確認してください。
手数料が別立てで引かれないということは、損益を決めるのは建値と決済価格の差だけということ。だから建値を見誤ると、自分の現在地がまるごと分からなくなります。
Ask 162.592円で1万通貨を買うと、その瞬間に20円の含み損が出る
ここからは数字で追いかけます。前提を先に置きます。
- 通貨ペアは米ドル/円、取引数量は1万通貨
- レートの基準は2026年7月21日17時時点の162.59円台
- Bidを162.590円、Askを162.592円とし、2つの価格の開きは0.2銭
- 取引手数料は0円、レートは注文から決済まで1度も動かない
この前提で、新規の買い注文を出します。使われる価格はAskなので、建値は162.592円。ここまでは表のとおりです。
問題は次の瞬間です。この建玉を評価するとき、システムが使うのは決済側の価格、つまりBidの162.590円になります。建値と評価価格が別々の数字を指しているわけです。
| 項目 | 使う価格 | 数値 |
|---|---|---|
| 建値(約定した価格) | Ask | 162.592円 |
| 評価に使う価格 | Bid | 162.590円 |
| 1通貨あたりの差 | Ask−Bid | 0.002円(0.2銭) |
| 1万通貨の評価損益 | 差×数量 | 0.002円×10,000=マイナス20円 |
計算すると、含み損はちょうど20円。相場は1度も動いていないのに、口座の評価損益はマイナス20円から始まります。
なお0.2銭という開きは、実在する公表値です。ヒロセ通商はスプレッド情報のページで、米ドル/円をAM9:00〜翌AM3:00は0.2銭、AM3:00〜AM9:00は5.9銭として公表しており、あわせて流動性の低い時間帯や経済指標発表時等には広がる場合があると注記しています(ヒロセ通商「LION FXスプレッド情報」)。
売りから入った場合も結果は同じです。建値はBidの162.590円、評価に使うのはAskの162.592円。差は同じ0.002円で、含み損も同じ20円になります。
評価損益がゼロに戻る条件は、Bidが建値に並ぶこと
「では、いくら上がれば損益がゼロになるのか」と思うかもしれません。ここは建値と評価価格を分けて考えると、すぐに答えが出ます。
買い建玉の評価に使われるのはBidでした。したがって損益ゼロの条件は、Bidが建値の162.592円に到達すること。0.002円、つまり0.2銭ぶんBidが上がればいい計算です。
そのときAskはどうなっているか。2つの価格の開きが0.2銭のままなら、Askも同じだけ動いて162.594円になっています。画面で買い価格だけを追っている人には、自分が買った162.592円より0.2銭高い数字が見えている状態。それでも損益はようやくゼロに戻ったところです。
この感覚のずれが、初心者が「損益の表示がおかしい」と感じる最大の原因かなと思います。見ている数字と、計算に使われている数字が違うだけの話です。
ちなみに1万通貨を建てるのに必要な証拠金も、建値から逆算されます。取引金額は162.592円×10,000=162万5,920円。個人顧客との店頭FXでは、2011年8月1日以降、取引金額の4%以上の証拠金を預かることが業者に義務づけられているため、必要証拠金は約6万5,037円となります(金融先物取引業協会「FX取引の規制について」)。
必要証拠金6万5,037円に対して、スタート時点の含み損は20円。比率にすれば0.03%程度なので、1回の取引で気にする水準ではありません。効いてくるのは回数を積んだときです。
建値は損益だけでなく、税金の計算でも起点になる
建値を軽く扱えない理由がもう1つあります。決済したときに確定する所得が、建値との差額で決まるからです。
この差額は申告分離課税の対象で、合計20.315%が課されます。内訳や区分の細かい定義は国税庁のタックスアンサーに書かれています(国税庁「No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」)。
課税されるのは含み損益ではなく、決済して確定した差額のほうです。つまり建値は、決済するその日まで自分の税額の起点として残り続ける数字ということになります。
年間の取引報告書を見たときに数字が合わない、という相談をときどき見かけます。多くは平均建値の扱いを取り違えているだけ。分割して建てた建玉は1本の平均値に丸められるので、個別の約定価格を足し引きしても一致しません。
画面に2つの価格が並ぶのは、業者が自分の値段を出しているから
そもそも、なぜ1つの通貨ペアに価格が2つあるのか。ここを押さえると、Bidが低くAskが高い理由まで腹落ちします。
店頭FXでは、業者が取引の相手方になって売値と買値の両方を提示します。業者はその建玉をインターバンク市場でカバーするため、自社が受け取る価格と支払う価格の間に幅を置く。この幅が、そのまま画面上の2つの価格の距離になります。
背景にあるインターバンク市場の規模は、公的な統計で確認できます。国際決済銀行の3年ごとの調査では、2025年4月のOTC外国為替取引は1日平均9.6兆ドルで、2022年の7.5兆ドルから28%増加しました。取引に円が関わる割合は16.8%、上位10通貨ペアはすべて米ドルを含んでいます(BIS「OTC foreign exchange turnover in April 2025」)。
この市場に参加者が多い時間帯ほど、業者が置く幅は狭くなります。逆に参加者が引ける時間帯には広がる。先ほど引いたヒロセ通商の公表値で、同じ米ドル/円が時間帯によって0.2銭にも5.9銭にもなるのは、この構造をそのまま数字にしたものです。
裏を返すと、2つの価格の距離は自分では選べません。選べるのは、どの時間帯に注文を出すかのほうだけです。
FXのレートと建値について、口座を開く前によく調べられている疑問
価格の読み方と建値の役割はここまでで揃いました。とはいえ、実際に画面を開くと細かい部分が気になるはずです。検索でよく調べられている5つに答えます。
FXのレートは、どこの誰が決めているのですか?
特定の1人が決めているわけではなく、インターバンク市場で成立している実勢を各社が自社のレートとして提示しています。
そのため、会社によって表示価格は小数点以下で微妙に食い違います。日本銀行が公表している外国為替市況の数値と、口座画面の数値がぴたりと重ならないのも、この違いによるもの。
平均建値とは、普通の建値と何が違うのですか?
同じ通貨ペアを複数回に分けて建てたときに、数量で加重平均して1本にまとめた価格のことです。
たとえば162.500円で1万通貨、162.700円で1万通貨を買った場合、平均建値は162.600円になります。以降の評価損益は、この1本の数字を基準に計算されます。
BidとAskは、どちらが必ず高いのですか?
Askが高く、Bidが低くなります。順序が入れ替わることはありません。
自分の立場で言い換えると、買うときは高いほうを掴み、売るときは安いほうで手放す。この非対称が、FXのコスト構造そのものです。
買った直後に含み損が出るのは、どの会社でも同じですか?
同じです。2つの価格が存在する以上、新規と決済で使う価格が違うという構造は変わりません。
違うのは含み損の大きさのほうです。会社ごと、そして時間帯ごとに2つの価格の距離は変わるため、同じ1万通貨でも出発点のマイナスは20円のこともあれば数百円のこともあります。
建値は、あとから自分で変更できますか?
できません。建値は約定した事実そのものなので、注文が通った時点で確定します。
変えられるのは平均建値のほうだけ。同じ方向に建て増しすれば、数量に応じて平均値が動きます。損益を改善する手段ではなく、単に計算の基準が移るだけだという点は誤解しないでください。
レートは2つ、損益に効くのは1つと覚えれば画面の迷いは消える
画面に並ぶ数字が多く見えても、自分の損益を動かしているのは決済側の価格だけです。買い建玉ならBid、売り建玉ならAsk。この1点を握っておけば、評価損益の表示に驚くことはなくなります。
- Bidは自分が売る価格、Askは自分が買う価格で、Askが必ず高い
- 新規と決済で使う価格が入れ替わるため、買い建玉はAskで建ててBidで評価する
- 建値は約定した価格そのもので、後から変更できず、税金の計算でも起点になる
- Ask 162.592円で1万通貨を買うと、レートが動かなくても含み損は20円から始まる
- 損益ゼロの条件はBidが建値に並ぶことで、2つの価格の距離ぶんだけ上昇が必要になる
最初の1回は、1,000通貨で建ててポジション一覧の建値を眺めるだけで構いません。画面のどの数字が動き、どの数字が固定されているかを目で確認するほうが、説明を読むより早く身につきます。
出発点の20円を決めているのは、2つの価格の距離のほうです。会社ごとにその距離がどう違い、いつ広がるのかはFXのスプレッドと国内口座の比較で、公表値の但し書きまで並べて確認してください。

