「会社を辞めてFXだけで食べていけたら、と考えることがある。実際、いくら資金があれば専業になれるんだろう」
こういった疑問に答えます。
専業で生活できるかどうかを、この記事では腕前ではなく金額で切ります。必要なのは生活費を月利でまかなえる資金で、生活費20万円・月利2%という仮定なら約1,397万円。さらに会社を辞めると、国民年金と国民健康保険の負担が全額自分に乗ります。所得がゼロでも年27万1,060円は出ていく計算です。なお「ランキング1位は誰か」「プロの年収はいくらか」に答えられる公的資料は、今回の調査では確認できませんでした。
専業を考える段階なら、往復コストの差が年単位で効いてきます。各社の取引条件を先に並べて見ておきたい方は、主要FX会社の比較ページに一覧をまとめました。
なお、いきなり専業へ振り切らず勤めながら続ける道もあります。就業規則や申告の扱いはFXは副業になるのかと会社員の兼業トレード術で整理しているので、辞めるかどうかを決める前に目を通しておいてください。
| 論点 | この記事の答え |
|---|---|
| 専業の条件 | 生活費と固定費を、資金の月利でまかなえること |
| 必要資金(生活費20万円) | 月利1%で約2,793万円、2%で約1,397万円、3%で約931万円 |
| 必要資金(生活費50万円) | 月利1%で約6,558万円、2%で約3,279万円、3%で約2,186万円 |
| 税の扱い | 利益は申告分離課税20.315%。生活費は税引き後から出る |
| 年金 | 厚生年金の労使折半から外れ、国民年金保険料17,920円(令和8年度)が全額自己負担 |
| 健康保険 | 国民健康保険へ。横浜市の令和8年度は均等割56,020円に所得割11.29%が加算 |
| 所得ゼロでもかかる額 | 国民年金215,040円+均等割56,020円=年271,060円(月22,588円) |
| 有名トレーダーの年収・順位 | 公的に確認できる資料が見当たらず、この記事では扱いません |
専業の条件は腕前ではなく、生活費を月利でまかなえる資金があるかどうか
「どのくらい勝てるようになれば専業になれますか」と聞かれることがあります。この問いの立て方だと、答えが出ません。
専業かどうかを決めるのは、勝率でも手法でもなく比率だからです。必要なのは「毎月いくら引き出すか」と「その額が資金の何%か」の2つ。前者が生活費、後者が月利です。
たとえば生活費が月20万円で、資金が2,000万円あるなら、必要な月利は1%。同じ生活費でも資金が500万円しかなければ、必要な月利は4%になります。求められる腕前は、生活費ではなく資金の大きさで決まるということ。
ここで先に断っておきます。この記事で使う月利1%・2%・3%は、必要資金を逆算するために置いた仮定値です。実際に達成できる水準を示すものでも、達成できると保証するものでもありません。月利を集計した公的統計も、今回の調査では確認できませんでした。
もうひとつ重要な点。生活費を毎月引き出す以上、元本は増えません。複利で膨らんでいく想定ではなく、同じ元本から毎月同じ額を抜き続ける想定で計算します。
生活費20万・30万・50万円を月利で逆算すると、必要資金は931万円から6,558万円になる
具体的な金額を出します。計算の前提を先に並べます。
- 生活費は手取りベースで月20万円、30万円、50万円の3通り
- FXの利益は申告分離課税20.315%(国税庁「No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」)
- 社会保険の固定費として月22,588円を上乗せする(内訳は次の章)
- 月利は資金に対する月次の利益率で、1%・2%・3%の3通り。すべて仮定値
- 生活費は毎月引き出すため、元本は増えないものとする
税引き後で月20万円を残すには、税引き前でいくら必要か。20万円に固定費22,588円を足した222,588円を、(1−0.20315)で割ります。答えは279,335円。これが毎月必要な利益です。
同じ計算を3通りで行い、月利で割って必要資金を出しました。
| 生活費(手取り) | 毎月必要な利益(税引き前) | 月利1%なら | 月利2%なら | 月利3%なら |
|---|---|---|---|---|
| 月20万円 | 279,335円 | 約2,793万円 | 約1,397万円 | 約931万円 |
| 月30万円 | 404,829円 | 約4,048万円 | 約2,024万円 | 約1,349万円 |
| 月50万円 | 655,817円 | 約6,558万円 | 約3,279万円 | 約2,186万円 |
年額に直すと、生活費20万円のケースで年3,352,020円、50万円のケースで年7,869,804円の利益が必要です。
この表の読み方で、いちばん大事なのは横の広がりです。生活費20万円の行だけ見ても、月利1%と3%で必要資金が3倍違う。つまり「いくらあれば専業になれるか」は、自分がどれだけの月利を前提に置くかで答えが3倍動くということ。
そして月利3%は、利益を毎月引き出す前提なので単純に12倍でよく、年利に直せば36%。これを毎月、生活費を引き出しながら維持する前提です。表の右端の列がいちばん資金が少なくて済むように見えますが、要求水準はいちばん高い。ここを取り違えないでください。
会社を辞めると、厚生年金の労使折半と会社の健康保険から同時に外れる
金額の話に、多くの人が計算に入れ忘れる項目があります。社会保険です。
会社員のあいだ、厚生年金の保険料率は18.3%で固定されており、「事業主と被保険者とが半分ずつ負担します」と定められています(日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。健康保険も同様に、勤務先と分け合う形になっています。
専業になると、この折半相手がいなくなります。国民年金と国民健康保険に切り替わり、保険料は全額が自分の負担です。
| 項目 | 会社員のとき | 専業になったあと |
|---|---|---|
| 年金 | 厚生年金。保険料率18.3%を事業主と折半 | 国民年金。定額を全額自己負担 |
| 医療保険 | 勤務先の健康保険 | 国民健康保険(市区町村) |
| 保険料の決まり方 | 標準報酬月額に応じて決まる | 定額部分と、所得に応じた部分の組み合わせ |
| 収入がゼロの月 | 給与がある前提 | 定額部分は発生し続ける |
「収入が減れば保険料も減るのでは」と思うかもしれません。所得に応じて動く部分は減りますが、定額の部分は残ります。次の章で、その定額部分がいくらになるかを出します。
なお、退職後の健康保険には任意継続という選択肢もあります。条件と保険料は加入していた健康保険組合や協会けんぽで異なるため、退職前に勤務先と保険者へ確認してください。
所得がゼロでも年27万1,060円。国民年金と均等割は利益と無関係にかかる
定額部分を実数で出します。
国民年金保険料は令和8年度で1カ月あたり17,920円です(日本年金機構「国民年金保険料」)。年に直すと215,040円。
国民健康保険料は市区町村ごとに料率が違うので、公表値が確認できた横浜市の令和8年度で計算します。同市の料率は、医療分が所得割8.33%・均等割40,870円・賦課限度額670,000円、支援分が所得割2.62%・均等割13,380円・賦課限度額260,000円、介護分が所得割2.84%・均等割16,200円・賦課限度額170,000円です。加えて令和8年度からは子ども・子育て支援納付金分が新設され、所得割0.34%・均等割1,770円・賦課限度額30,000円が上乗せされます(横浜市「令和8年度保険料の料率等について」)。介護分は40歳から64歳の方が対象で、保険料は6月から翌年3月までの年10回に分けて納めます(横浜市「保険料について」)。
| 費目 | 年額 | 月換算 | 所得との関係 |
|---|---|---|---|
| 国民年金保険料(令和8年度) | 215,040円 | 17,920円 | 定額。所得と無関係 |
| 国保 均等割(医療分+支援分+子ども分) | 56,020円 | 約4,668円 | 定額。所得と無関係 |
| 上の2つの合計 | 271,060円 | 約22,588円 | 利益がゼロでも発生 |
| 国保 均等割(介護分・40〜64歳) | 16,200円 | 1,350円 | 該当年齢のみ加算 |
| 国保 所得割(医療分+支援分+子ども分) | 基準総所得金額 × 11.29% | 変動 | 所得に比例して増える |
先ほどの逆算表で上乗せした月22,588円は、この表の3行目です。利益がゼロだろうと、年に271,060円は出ていく。40歳から64歳の方は介護分が加わって年287,260円、月23,938円になります。
所得割は、これとは別に上乗せされます。基準総所得金額が300万円なら、11.29%を掛けて年338,700円、月に直すと28,225円。逆算表の必要資金には、この所得割を含めていません。実際にはこの分だけ必要な利益が増えます。
一方で、上限もあります。医療分67万円、支援分26万円、子ども分3万円と賦課限度額が定められているので、所得がいくら増えても国保料が青天井にはなりません。所得が低い場合の軽減制度、国民年金の免除制度もあります。適用の可否と実額は、お住まいの市区町村と年金事務所で確認してください。
ここまでの数字は横浜市の料率に基づくもので、全国共通ではありません。同じ所得でも自治体によって金額が変わります。
「ランキング1位」「世界一のトレーダー」「プロの年収」に答えられる資料は見つからなかった
専業を調べていると、必ず個人名や年収の話に行き当たります。ここは正直に書きます。
日本のFXトレーダーの資産順位、世界一のトレーダーが誰か、専業トレーダーの平均年収。いずれについても、公的に確認できる資料は今回の調査では見つかりませんでした。特定の個人を実名で「最も稼いだ人」として紹介することも、この記事ではしません。
理由は3つあります。第一に、個人の運用成績を届け出る制度がないこと。第二に、業界団体が公表している統計は取引状況の集計であって、参加者の収入ではないこと(金融先物取引業協会「統計・調査資料」)。第三に、雇用されていない個人の収入は、事業所を対象とする賃金統計の枠外にあることです。
金融庁が公表している数字にも、成績の集計はありません。金融サービス利用者相談室が令和8年1月から3月に受け付けた15,765件のうち、FXに関するものは276件でした(金融庁「金融サービス利用者相談室における相談等の受付状況等(令和8年1月〜3月)」)。これは相談の件数であって、収入でも順位でもありません。
「では、ネットで見かける億トレーダーの話は何なのか」と思うかもしれません。自称の可能性も、事実の可能性もあります。判定できないというのが、この記事の立場です。判定できない情報を自分の資金計画の前提に置かないこと。ここだけは強くお伝えします。
勝っている人の割合をめぐる数字も同じ構造でした。出所の追い方はFXで勝ってる人の割合と9割が負ける説の検証にまとめてあるので、数字の真偽を自分で判定したい方はそちらへ。
資金が足りているかは、月利ではなく「利益ゼロで何か月もつか」で測る
必要資金の表には、ひとつ弱点があります。毎月きっちり月利が出る前提になっていること。
現実には、利益が出ない月があります。そのとき生活費と社会保険料は待ってくれません。だから専業を検討するときは、月利とは別にもう1つの物差しを持ったほうがいい。生活費と固定費だけを取り崩したとき、何か月生きられるかという数字です。
| 生活防衛資金 | 生活費20万円+固定費22,588円の場合 | 生活費30万円+固定費22,588円の場合 |
|---|---|---|
| 6か月分 | 約134万円 | 約194万円 |
| 12か月分 | 約267万円 | 約387万円 |
| 24か月分 | 約534万円 | 約774万円 |
この金額は、取引資金とは別に確保しておく前提です。取引資金から生活費を引き出す設計だと、負けた月に資金が減り、必要な月利が上がり、さらに無理な取引になるという流れに入ります。
そしてもう1点。証拠金を上回る損失が発生する可能性は制度として残っています。金融先物取引業協会は「ルール通りにロスカット取引が行われた場合であっても、相場の状況によっては顧客から預かった証拠金以上の損失の額が生じることがあります」と明記しています(金融先物取引業協会「ロスカット・ルールの整備・遵守の義務付け」)。取引資金がゼロになる可能性ではなく、マイナスになる可能性まで含めて生活設計を組む必要があります。
専業に切り替える前に、同じ設計を勤めながら12か月動かして測る
判断を急がないための手順を書いておきます。
必要資金の表は、月利という入力を外から与えないと使えません。その入力を推測ではなく実測で埋めるには、辞める前に測るしかない。
測るべきは4項目です。月ごとの資金に対する利益率、その月次のばらつき、最大でどこまで資金が減ったか、そして往復コストの累計。このうち月利の平均だけを見るのがいちばん危ない読み方で、平均が2%でも、月によって10%と−6%を行き来しているなら生活費の原資にはなりません。
期間は最低12か月。相場の局面が一巡しないと、たまたま合っていた期間と実力の区別がつかないからです。3か月の好調で辞める判断をすると、必要な月利が上がった状態で残り9か月を迎えることになります。
なお、この段階で「専業になれば勝てるようになる」といった説明に触れる機会が増えます。金融庁は典型的な詐欺的勧誘の文句として「セミナーで勉強すれば、勝てるようになる」「自動売買ソフトを使えば、なにもしなくても儲かる」を挙げ、勧誘を要請していない顧客への勧誘は原則禁止だと示しています(金融庁「FX取引・暗号資産等に関する詐欺的な勧誘にご注意ください」)。収入が不安定な時期ほど、こうした言葉は響いてしまいます。
FXだけで生活できるかを調べた人が、資金の前に確かめる5つの疑問
専業をめぐる検索は、金額の話と人物の話に二分されます。両方まとめて答えます。
FXだけで生活できますか?
できるとも、できないとも断定しません。判定できるのは、生活費と固定費を資金の月利でまかなえるかという比率だけです。
生活費20万円なら、月利1%で約2,793万円、2%で約1,397万円、3%で約931万円が必要という計算になりました。この月利はすべて仮定値で、達成を保証するものではありません。加えて、利益ゼロの月に耐えるための生活防衛資金を別に確保しておく必要があります。
日本のFXトレーダーランキング1位は誰ですか?
公的に確認できる資料が見当たらないため、この記事では答えられません。世界一のトレーダーは誰か、いちばん稼いだ人は誰かという問いも同じです。
個人の運用成績を届け出る制度を確認できないので、順位を作る母集団そのものがありません。名前を挙げている情報を見かけても、その根拠が一次資料までさかのぼれるかを確認してください。
FXのプロトレーダーや専業トレーダーの年収はいくらですか?
平均年収を集計した公的統計は、今回の調査では確認できませんでした。
雇用されている労働者の賃金を調べる統計はありますが、専業トレーダーは事業所に雇用されている立場ではないため、そこに含まれません。金融庁や金融先物取引業協会が公表しているのも、取引状況や相談件数であって収入ではないということ。
億り人になるには何年かかりますか?
年数を集計したデータは確認できませんでした。到達年数は、元本と月利という2つの仮定を置けば計算できますが、その仮定が続く保証がないため、年数を書いても意味を持ちません。
そもそも専業の条件は、1億円という残高ではありません。生活費と固定費を月利でまかなえる資金があるかどうかです。生活費20万円・月利2%なら約1,397万円で条件を満たす計算になります。
専業になると、社会保険料はいくら増えますか?
所得がゼロでも、国民年金215,040円と国民健康保険の均等割56,020円(横浜市の令和8年度・医療分と支援分と子ども分)で年271,060円がかかります。月に直すと約22,588円。
これに所得割が加わります。横浜市の医療分と支援分と子ども分を合わせた所得割は11.29%なので、基準総所得金額が300万円なら年338,700円。40歳から64歳の方はさらに介護分が上乗せされます。料率は市区町村で異なるため、実額はお住まいの自治体で確認してください。
専業になれるかどうかは、月利ではなく固定費と資金の比で決まる
ここまで計算してきて分かるのは、専業の可否を決めているのが相場の読みではないということ。生活費と社会保険料という動かせない支出に対して、資金がどれだけあるか。その比率が要求月利を決め、要求月利が実現可能性を決めます。
- 生活費20万円なら必要資金は月利1%で約2,793万円、2%で約1,397万円、3%で約931万円
- 生活費50万円なら月利1%で約6,558万円、2%で約3,279万円、3%で約2,186万円
- 利益がゼロでも国民年金215,040円と国保均等割56,020円で年271,060円が出ていく
- 国保の所得割は横浜市で11.29%。逆算表には含めていないので、その分だけ必要利益は増える
- 順位や平均年収を示す公的資料は見つからず、この記事では扱わなかった
必要資金の表を見て資金が届いていないなら、辞める判断より先に、勤めながら12か月測るほうが安全です。
次に読むなら、元本を取り崩さずに増やす側の計算をしたFXの複利運用で10万円を増やす計算と現実的な限界へ。生活費を引き出す前提を外すと、同じ月利でも資金の伸び方がどう変わるかを確認できます。

