FXの法人化はいくらから?個人事業主との違いと目安

FXの法人化はいくらから?個人事業主との違いと目安

「FXの利益がまとまってきた。法人化すると税金が安くなると聞くけれど、どのくらいの利益から検討する話なんだろう」

こういった疑問に答えます。

先に結論を書きます。FXの利益だけで比べるかぎり、法人化は税率の面では有利になりません。名古屋市に本店を置く資本金1,000万円の法人を例に計算すると、税負担は所得500万円で約24.3%、2,000万円で約31.9%となり、個人の20.315%を一度も下回りませんでした。それでも法人化が検討されるのは、損失の繰越が3年から10年に伸びること、証拠金規制の建て付けが違うことなど、税率以外の理由があるからです。

法人口座を用意しているかどうかや取引条件は会社ごとに違います。個人と法人のどちらで進めるにせよ、まずは主要FX会社の比較ページで取引条件の並びを押さえておくと、比べる軸が決まります。

項目個人法人
税率申告分離課税20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+地方税5%)で固定法人税は年800万円以下15%・超過分23.20%(資本金1億円以下・適用除外事業者以外)。ここに地方法人税・法人住民税・法人事業税等が上乗せ
損失の繰越期間翌年以後3年間。連続した確定申告が要件10年(平成30年4月1日以後に開始した事業年度で生じた欠損金)。中小法人等は所得金額を限度に全額控除
経費の範囲総収入金額を得るために直接要した費用等。家事関連費は業務遂行上直接必要と明らかに区分できる金額に限る役員報酬など個人にはない項目が関わる。要件は税法で細かく定められ、国税庁は金額の目安を示していない
レバレッジ規制証拠金率4%以上で上限25倍一律の上限はなく、通貨ペアごとに算出して週1回以上見直す変動制
社会保険加入の要否は本人の就労状況による法人の事業所は事業主のみの場合を含めて厚生年金保険・健康保険の強制適用
設立と維持のコスト0円設立時に登録免許税(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)。維持は法人住民税の均等割が赤字でも毎年発生

法人側の税率や金額は、いずれも国税庁と自治体の公表値です。なお、法人化を考える以前に申告していない年がある方は、FXの税金を申告しなかった場合のペナルティで加算税と延滞税の割合を先に確認しておいてください。以下、この表の各行を数字で裏取りしていきます。

法人の税負担は法人税だけで決まらず、その上に4種類の税が積み上がります

「中小法人なら15%だから、20.315%より安いのでは」と考えたくなるところ。ここが最初の落とし穴です。

法人税の税率から確認します。資本金1億円以下の普通法人のうち適用除外事業者以外は、年800万円以下の部分が15%、年800万円超の部分が23.20%。適用除外事業者は年800万円以下の部分が19%で、資本金1億円超の普通法人は一律23.20%です(国税庁「No.5759 法人税の税率」)。法令基準日は令和7年4月1日現在。さらに令和7年4月1日以後に開始する事業年度で所得金額が年10億円を超える場合は、年800万円以下の部分が17%になります。

問題は、この法人税額を土台にして別の税が積み上がることです。地方法人税の税率は10.3%で、平成30年10月1日以後に開始する課税事業年度から適用されています(国税庁「地方法人税の税率の改正のお知らせ」)。

法人住民税の法人税割も法人税額に対して課されます。名古屋市の法人市民税は、資本金1億円以下で法人税額が年2,500万円以下なら6.0%(令和元年10月1日以後に開始する事業年度分)(名古屋市「法人市民税(あらまし・税率)」)。愛知県の法人県民税の法人税割は標準税率1.0%で、法人事業税の所得割は標準税率が年400万円以下3.5%、400万円超800万円以下5.3%、800万円超7.0%。特別法人事業税は基準法人所得割額の37%です(愛知県「法人県民税・事業税・特別法人事業税・地方法人特別税」)。

つまり法人の税は、法人税、地方法人税、法人住民税の法人税割、法人事業税と特別法人事業税、そして所得と無関係にかかる均等割の5層構造。15%という数字は、いちばん下の1層にすぎません。

利益500万・1,000万・2,000万で計算すると、法人のほうが19万〜231万円多く払います

実際に積み上げてみます。前提を先に置きます。

  • 法人は資本金1,000万円、従業者数50人以下、適用除外事業者に当たらない普通法人とし、外形標準課税の対象外とします
  • 本店は名古屋市に置き、法人県民税と法人事業税は愛知県の標準税率、法人市民税の法人税割は名古屋市の6.0%を使います(愛知県の標準税率が適用されるのは資本金1億円以下かつ年所得5,000万円以下の法人で、この記事の試算はいずれの利益額でもその範囲内)
  • 役員報酬は0円とし、利益はすべて法人に残すものとします。したがって社会保険料は含めていません
  • 均等割は愛知県の法人県民税21,000円(標準税率20,000円にあいち森と緑づくり税5%を上乗せした実額)と名古屋市の法人市民税50,000円の合計71,000円とします
  • 法人事業税等の損金算入は考慮していない簡易計算です。この扱いは法人側の負担をやや大きめに見せます
  • 個人はFXの所得に20.315%を掛けた金額とします
年間利益個人(20.315%)法人の税合計法人の対所得負担率法人が多く払う額
500万円1,015,750円1,215,160円24.30%199,410円
1,000万円2,031,500円2,696,912円26.97%665,412円
2,000万円4,063,000円6,377,272円31.89%2,314,272円

利益1,000万円の内訳を開くとこうなります。法人税1,664,000円(800万円×15%+200万円×23.20%)、地方法人税171,392円、法人県民税の法人税割16,640円、法人市民税の法人税割99,840円、法人事業税492,000円、特別法人事業税182,040円、均等割71,000円。合計2,696,912円です。

先ほど触れた法人事業税等の損金算入を織り込んで計算し直しても、負担率は500万円で23.37%、1,000万円で25.13%、2,000万円で29.66%。個人の20.315%を下回る水準にはなりませんでした。

なお、この金額は法人にかかる税だけの話です。経費として何を落とせるかで課税所得そのものが変わるため、FXで経費にできるものの範囲もあわせて確認しておくと、この試算の入口の数字がより具体的になります。

「いくらから得か」の分岐点は、利益額の側には現れませんでした

読者が知りたいのは分岐点でしょう。ところが今回の前提では、利益をいくら増やしても法人が個人を下回る点が出てきません。

理由は税率の構造にあります。15%が使えるのは年800万円以下の部分だけで、それを超えた分は23.20%。しかも法人事業税と特別法人事業税は所得の全体にかかるため、いちばん軽い所得帯でも負担率は24%前後に落ち着きます。所得3,000万円まで広げると33.53%、5,000万円で34.84%と、利益が増えるほど個人との差は開いていきました。

維持コストの仮定を変えても符号は動きません。税理士報酬を年間0円から40万円まで振った感度表がこちらです。数値は法人が個人より多く負担する金額で、すべてプラスなら法人が不利ということ。

年間利益税理士報酬0円20万円30万円40万円
500万円199,410円399,410円499,410円599,410円
800万円335,640円535,640円635,640円735,640円
1,000万円665,412円865,412円965,412円1,065,412円
2,000万円2,314,272円2,514,272円2,614,272円2,714,272円

税理士報酬は金額に幅があるため、ここでは仮定値として置いています。実際の報酬額は事務所と業務範囲で変わるので、見積もりを取って自分の数字に差し替えてください。

株式や事業所得のように累進税率が効く所得なら、法人税率との比較で分岐点が生まれます。FXにそれが起きないのは、個人の段階ですでに20.315%という低い定率で完結しているから。分岐点は利益額ではなく、次に見る条件のほうにあります。

法人化で本当に変わるのは繰越期間で、3年が10年に伸びます

ここからが法人化の実質的な理由です。個人のFXの損失は、翌年以後3年間しか繰り越せません(国税庁「No.1523 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除」)。しかも先物取引に係る雑所得等以外の所得とは損益通算できないと国税庁が明記しています(国税庁 確定申告書等作成コーナー「先物取引に係る雑所得等の金額の計算上、損失が生じた場合」)。

法人はどうか。青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金の繰越期間は10年で、これは平成30年4月1日以後に開始した事業年度で生じたものが対象。それ以前に開始した事業年度で生じた欠損金は9年です。中小法人等は所得金額を限度に全額を控除できます(国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」)。

差がどこに出るか、7年間で試します。1年目に600万円の損失を出し、2年目から7年目まで毎年100万円の利益が出たと仮定しましょう。

個人(繰越3年)法人(繰越10年)
1年目(損失600万円)0円均等割71,000円
2〜4年目各0円(合計300万円を控除)各71,000円(欠損金で控除)
5〜7年目各203,150円(繰越が失効)各71,000円(欠損金で控除)
7年間の合計609,450円497,000円

個人は300万円の損失を使い切れないまま失効し、5年目以降は3年分で609,450円を納めることになります。法人は600万円を全額吸収できるため税額は発生しませんが、代わりに均等割が7年分で497,000円。差し引き112,450円だけ法人が軽いという結果でした。

ここは正直に書きます。この程度の規模なら、税理士報酬を年30万円と置いた時点で7年で210万円のコストが乗り、差は簡単に逆転します。繰越の長さが効いてくるのは、損失の絶対額が3年では吸収しきれないほど大きい場合に限られます。

証拠金規制は、法人になると25倍という一律の上限が外れて変動制に変わります

税以外でいちばん構造が変わるのが、この証拠金規制。個人向けの店頭FXは、取引金額に対して4%以上の証拠金を預かることが業者に義務づけられており、結果としてレバレッジの上限が25倍になります。

法人はこの一律規制の対象外です。金融先物取引業協会は、法人顧客との店頭FXについて、通貨ペアごとに算出した証拠金率を少なくとも週1回見直す方式を示しています(金融先物取引業協会「法人店頭FX取引に係る証拠金規制」)。算出は直近26週または直近130週を対象とした数値のいずれか高いほうを採用する定量的計算モデルによります。

誤解しやすいので念を押しますが、これは上限がなくなるという話ではありません。相場の変動が大きい通貨ペアでは証拠金率が引き上げられ、実質的なレバレッジは下がります。しかも週単位で数字が動くため、想定していた建玉が翌週には維持できなくなることもありうるということ。

高いレバレッジを狙って法人化するという発想は、この変動制の建て付けを理解したうえででなければ危険だと思います。上限が消えるのではなく、上限が毎週書き換わる仕組みに移るだけです。

赤字でも均等割は毎年かかり、法人は「たたむまで固定費が続く」構造になります

法人化を検討するときにいちばん見落とされるのが、所得と無関係に発生する費用です。

法人住民税の均等割は、自治体が公表している税率表を見ると区分の仕方が分かります。名古屋市の法人市民税は資本金等の額と従業者数の組み合わせで区分され、資本金等の額が1千万円以下なら従業者数50人以下で年50,000円、50人超で年120,000円(名古屋市「法人市民税(あらまし・税率)」)。愛知県の法人県民税は資本金等の額だけで5段階に分かれ、いちばん下の1千万円以下が年21,000円です(愛知県「法人県民税・事業税・特別法人事業税・地方法人特別税」)。金額は自治体で変わるため、全国一律の数字としては書けません。愛知県は標準税率20,000円にあいち森と緑づくり税として5%相当額を上乗せしており、超過課税を行う自治体では同じように上乗せがあります。

設立費用も見ておきます。登録免許税は、株式会社の設立登記が資本金の額の1,000分の7で15万円に満たないときは15万円、合同会社の設立登記が同じく1,000分の7で6万円に満たないときは6万円です(国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」)。資本金1,000万円なら1,000分の7は7万円なので、株式会社は最低額の15万円、合同会社は7万円。この条件では8万円の差が付きます。

社会保険も固定費側の話です。日本年金機構は、強制適用事業所として「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」を挙げています(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。今回の試算は役員報酬0円を前提にしているため保険料を含めていませんが、報酬を出す設計にすれば、給与所得控除や所得税の累進税率とあわせて負担の形が変わります。ここは個別性が高く、税理士に設計してもらう領域だと考えてください。

「FXの法人化は意味ない」と言われるのは、個人がすでに分離課税だからです

検索でよく見かけるこの言い回しには、はっきりした根拠があります。

FXの差金等決済による損益は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の対象になり、税率は所得税15%、地方税5%、これに復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が加わって20.315%(国税庁「No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」)。給与がいくらであっても、この率は動きません。

一般に法人化が節税になると語られるのは、個人の所得税が累進課税で、所得が増えるほど税率が上がる所得を扱う場合です。FXはその出発点が最初から低い定率になっているため、法人税と地方税の合計に乗り換える動機が生まれにくい。ここが他の副業や事業と決定的に違うところです。

経費についても、期待するほどの差が出るとは限りません。個人の必要経費は「総収入金額を得るために直接要した費用の額」と「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」とされ、家事関連費は業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる金額に限られます(国税庁「No.2210 必要経費の知識」)。法人にすれば無条件に幅が広がるという書き方は、公表資料からは裏付けられません。

とはいえ「意味がない」と言い切るのも乱暴でしょう。損失の規模が大きい人、FX以外の事業と損益を合わせたい人、資産を法人に集約したい人には、税率とは別の理由が残ります。「意味がない」のは税率の比較という一点についてであって、法人化という選択そのものではない、という整理が正確なところです。

FXの法人化を検討している人から、判断の直前に多い質問

数字が出そろったところで、決める前に引っかかりやすい点に答えます。確認できなかったことは、そのまま確認できなかったと書きます。

FXの法人口座は個人口座より有利ですか?

税率で見れば個人が有利で、証拠金規制で見れば法人は一律25倍の上限から外れます。有利かどうかは、どちらの軸を優先するかで逆になるということ。

ただし法人の証拠金率は通貨ペアごとに週1回以上見直される変動制なので、常に高いレバレッジが使えると考えるのは誤りです。会社によって法人口座の取扱い自体が違うため、条件は各社の公式ページで確認してください。

合同会社と株式会社では、どちらが設立費用を抑えられますか?

登録免許税だけを比べると合同会社です。株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円と定められています。

資本金1,000万円の場合、1,000分の7は7万円。株式会社は最低額が適用されて15万円、合同会社は7万円となり、差は8万円でした。なお定款認証費用などは国税庁の税額表の範囲外なので、この記事では扱っていません。

個人事業主としてFXをすると経費の範囲は広がりますか?

開業届の有無でFXの課税区分が変わるという記載は、国税庁のページで確認できませんでした。FXの損益は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の対象と示されています。

必要経費の考え方も、業務遂行上直接必要であったことを区分できるかどうかという基準は変わりません。事業所得として申告できる余地があるかどうかは個別判断になるため、税務署または税理士に確認してください。

法人化すると税務調査に入られやすくなりますか?

法人か個人かで調査の頻度が変わるという公的な情報は、今回の調査では見つけられませんでした。根拠が示されていない情報をもとに判断材料にするのは避けたほうがよいと思います。

判断すべきは調査の可能性ではなく、法人にした場合に毎年発生する申告と均等割を続けられるかどうかのほうです。

FXの法人化は、税率ではなく損失と規制の側から判断する話です

ここまで計算してきたとおり、FXの利益に対する税負担だけを比べれば、法人化で有利になる利益額は今回の前提では現れませんでした。判断材料は税率ではなく、繰り越したい損失の大きさと、証拠金規制をどう見るかに移ります。

  • 法人の税は法人税15%だけでなく、地方法人税10.3%と法人住民税・法人事業税・特別法人事業税が上に乗る5層構造
  • 名古屋市の例では、法人の対所得負担率は500万円で24.30%、2,000万円で31.89%。個人の20.315%を下回らない
  • 損失の繰越は個人3年に対し法人10年。ただし均等割が毎年かかるため、規模が小さいと差は埋まる
  • 法人の証拠金規制は上限がなくなるのではなく、通貨ペアごとに週1回以上見直される変動制
  • 登録免許税は株式会社が最低15万円、合同会社が最低6万円。資本金1,000万円なら15万円と7万円

この記事の税率や金額は執筆時点で公表されているもので、税制改正や自治体の条例で変わります。試算はあくまで概算なので、自分の条件を当てはめる前に国税庁の該当ページを開き、最終的な判断は税務署または税理士に確認してください。

法人化の前に、そもそも取っているリスクの大きさを見直したい方は、FXが危ないと言われる理由とリスク一覧で損失が膨らむ経路を確認しておくと、繰り越すべき損失の見積もりが現実的になります。

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