近い将来に必ず売却することを想定したマイホーム選び

近い将来に必ず売却することを想定したマイホーム選び

住宅は購入したいと思っていて、自分の予算もある程度わかっているけど、どんな家を買ったらいいかわからないと思っている人も多いと思います。
私の主観ではありますが、その思いを突き詰めていくと「マイホームを一生の買い物と思いすぎている」ということだと思います。
言い古された言葉ではありますが、実務で携わっていると「一生の買い物にはなっていない」と私は感じています。

目次

近い将来に必ず売却することを想定したマイホーム選び

マイホームは一生の買い物ではない

住宅ローンを借りた人がローン完済までに要する年数の平均は約13年だそうです(※)。もちろん貯金などをして完済した人もいらっしゃると思いますが、相当数はローン途中に売却しているかと推察されます。すなわち買ったとしても10年~15年で売却していると言えるわけです。

「一生の買い物」と思ってしまっているから「どんなマイホームを買ったらよいかわからない」という結果になっているのではないかと私は推察しているわけです。一生の買い物と思えば、「今はいいけど老後になったら大丈夫かな?」とか「万が一転勤があった時に大丈夫か」とか色々なことを想定しなくてはならず、注意点が多すぎて「決まらない」という結果になるのだと思います。

そこで今回は視点を変えて「どんなマイホームを買ったらいいのかわからない」という方々へのアドバイスをしてみたいと思います。一言でいえば「近い将来に売却が必ず来ることを想定したマイホーム選び」という観点です。選び方の視点で言えば「今現在の自分のライフスタイルや家族構成に一番ふさわしいマイホームを買う」という基準で選びましょう。しかし、この基準で選んで、売却しなくてはいけなくなった時に本当に大丈夫かも検証しなくてはいけません。

この問題を考えるには「マイホームを処分しなくてはいけなくなった時のローンの残債」と「その時にマイホームがいくらで売れるのか」という情報を組み合わせると具体的になります。

「実質家賃」で売却シミュレーション

まずはじめの事例として、5年後に売りたくなったらどうなるでしょうか?
35歳、3LDKの賃貸に20万円の家賃でお住まいの「本舗太郎さん」を例にとって検証してみましょう。

太郎さんは海外にも展開している会社にお勤めで、転勤の可能性があるため、買っていいのか悩んでいます。
検討中の物件は、東京都心66平方メートル(約20坪)、5,000万円(1坪あたり単価250万円)です。
3人家族なので広さは今のところ十分だと感じるし、都心なので勤務先に近いことも気に入っています。
教育費負担などで手持ち金がないので、買うなら頭金ゼロ円でやりたいと思っています。
不動産業者が勧めてきたローンは、金利0.775%、35年ローンのプランです。

これで購入して、もし5年後に転勤が来て売りたくなってしまったら…

転勤の可能性もさることながら、太郎さんは空気の良いところで戸建てに住むのもいいなあと考えており、考えがまとまっていません。また、地方に実家があり、実家を継がなければならない可能性も気にしています。
そんなストーリーをシミュレーションしてみましょう。

その前に、表を見る上での注意点を記しておきます。

  • 家に費やした金額
    物件を購入して、売却するまでの間にどれだけ経費が掛かったかを示すものです。毎月のローン(元金+利息)、管理費+修繕金、固定医資産税、購入時の頭金+諸費用、これらの合計。
  • 売却想定価格
    表の上部記載の1坪当たりの単価で売れた場合の売却想定価格。
  • 売却価格 - 残債
    売却価格から、その時点でのローンの残りの金額を差し引いた金額。売却時に手にする現金です。
  • 実質家賃
    「家に費やした金額」+「残債」-「売却想定価格」の式で出てくる金額を、住んだ月数で割ったもの。購入から売却するまでの出費を月で割ったものです。その期間をその家賃で住んだことになります。

5年後売却シミュレーション(残債は4,365万円)

売却坪単価@250万円@240万円@230万円@220万円@210万円
売却想定金額4,992万円4,792万円4,593万円4,393万円4,193万円
家に費やした金額1,153万円1,153万円1,153万円1,153万円1,153万円
売却金額―残債627万円427万円228万円28万円-172万円
実質家賃87,667円121,000円154,167円187,500円220,833円

※1万円以下は四捨五入して表記。(「実質家賃」は1ケタまで表示)

どうでしょうか?5年住んで2割近く値下がりしない限りは、売却価格が残債を下回ることが無い計算になります。築5年だと新築価格とあまり変わらない価格で取引されるケースもままありますから、坪250万円と新築価格と同等に取引されると、5年後に627万円もの現金を手にして転勤先に向かうような絵も描けなくはありません。

私が注目してほしいのは「実質家賃」です。5年住んで1割以上値下がりしても、毎月187,500円という数字が出ています。
5年で1割値下がりしたというとなかなかの値下がり率ですが、現状の家賃が20万円の本舗太郎さんは今の賃貸に住み続けるより毎月1万円ちょっとは得だという計算になります。

10年後売却シミュレーション(残債は3,706万円)

では10年後に戸建てが欲しくなったら?同じように今度は10年後に戸建てが欲しくなってしまった時のことを考えてみましょう。

売却坪単価@250万円@240万円@230万円@220万円@210万円
売却想定金額4,992万円4,792万円4,593万円4,393万円4,193万円
家に費やした金額2,100万円2,100万円2,100万円2,100万円2,100万円
売却金額―残債1,286万円1,086万円887万円687万円487万円
実質家賃67,833円84,500円101,083円117,750円134,417円

※1万円以下は四捨五入して表記。(「実質家賃」は1ケタまで表示)

10年住んだので、新築時より1割超下がった「@220万円」で売却できたとしたら、手持金で687万円入ってくるので、次に買いたい戸建ての頭金として使うことができます。住みながら頭金を貯めた結果となるわけです。

「@220万円」で売れた時の「実質家賃」は117,750円なので、20万円の賃貸に住んでいた時の家賃に比べてぐっと負担も軽いし、同時に次の家の頭金まで作ってしまったので、「買わなきゃよかった」という結果にはならないでしょう。10年しか住まなかったわけですが、将来の希望もきちんと対応できた良い家選びと言えます。

15年後売却シミュレーション(残債は3,021万円)

15年住んで、実家に帰らなくてはいけなくなったら?
太郎さんは50歳になっています。

売却坪単価@250万円@240万円@230万円@220万円@210万円
売却想定金額4,992万円4,792万円4,593万円4,393万円4,193万円
家に費やした金額3,047万円3,047万円3,047万円3,047万円3,047万円
売却金額―残債1,971万円1,771万円1,572万円1,372万円1,172万円
実質家賃59,778円70,889円81,9443円93,056円104,167円

※1万円以下は四捨五入して表記。(「実質家賃」は1ケタまで表示)

15年住んで、売却すると手元に1,172万円残ります。
実家に帰るので住居費はゼロになったうえでこの現金なら老後に備えた貯金としても優秀でしょう。

10年後にいくらで売れるのか理解する

いかがだったでしょうか?「一生の買い物」という呪縛から離れて、年を経るごとの売却価格を想定し、売却を前提とした家選びをすれば「今、ふさわしい物件の種類と立地と広さで選ぼう」ということになり、「何を買ったらいいのか」という問題も薄くなるのではないのかと思います。

鋭い人は気づくと思いますが、「売却想定額はあくまで想定なのだから、その通り行くとは限らないのではないか?」と思われると思います。ごもっともな話で、売却想定額を良い目に見すぎると上記のシミュレーションはただの夢物語になってしまいます。

このコラムでお伝えしたマイホームの選び方の注意点は以下ということになります。

  • 将来のことはあまり深く考えすぎず、今必要な「物件種別」「広さ」「立地」で選び、何らかで購入したマイホームがふさわしくなくなったら売却を前提として選ぶ。
  • 年数経過ごとの「中古相場」を調べておく。同時に「ローン残債額」も頭に入れておく。
  • 「ローン残債額」>「中古相場」=「売却しにくいので一生の買い物」、「一生の買い物」と思えないのであれば、「ローン残債額」<「中古相場」になる物件を選ぶ

中古物件の売却事例はデータベース可されており、ネットなどで調べたり、不動産会社にデータを請求すれば、築年数や立地ごとに数字感をつかむのは難しいことではありません。「10年後にいくらで売れるのかきちんとわかっている」ということが大前提の提案ですのでその点はご承知おきいただきたいところです。

※アットホーム調べ

執筆者紹介

成冨 宏樹 株式会社ゼネラルホームズ 代表取締役

大手総合デベロッパーでの営業マネージャー職、マンション企画職を経て、2012年に不動産購入・住宅ローン・家計の見直し・リフォームなど、住宅に係るサービスをワンストップでサポートすることを目指す法人、株式会社ゼネラルホームズを設立。社長業の傍ら、宅地建物取引士、FP技能士の資格を生かして実務にも従事中。

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